慶應義塾大学 法学部 小論文 2014年 解説

・ 問題文

 次の文章は、「規範理論における主題としての「家族」」と題する論文の中で、フェミニズムにおけるケアと正義の二元論についての記述の抜粋である。この文章を読み、「ケアの倫理」と「正義の倫理」に関する筆者の分析を踏まえて、あなたの考えを論じなさい。

・ 問題の解き方

 本問は問題を一読しただけでは、求める解答が浮かばない問題の一つである。
 こうした問題の場合、まず言葉の定義がわからないため、それぞれの言葉の意味について明確にしておかなければならない。たとえば、規範理論、主題、ケアの倫理、正義の倫理、フェミニズムあたりの言葉については課題文を読みながらその定義を固めておく必要がある。
 問題文が読めるようになった後は、構成を考えなければいけない。
 ここでは、基本的に5STEPsを用いる形になる。文学部などよりはSFC寄りの問題が出る法学部では、解決策or結論模索型の5STEPsを用いる。

・ 模範解答

議論の整理……

課題文では、家事労働は誰かが担わなくてはならない役割であると述べている。こうした家事労働については、女性の選択の自由が広く認められている社会であるにもかかわらず、一方で女性以外に適切な担い手が見当たらないという矛盾した状況におかれてきた。こうした「正義の倫理」とされる背景から、特に育児・介護といった家事労働は女性の役割とされてきた。だが、筆者はこうした考え方について、社会的弱者としての女性の立場を尊重する「ケアの倫理」の見地から再考の余地があると考えている。

問題発見……

では、こうした家事労働の担い手を女性以外に誰に求めるかということが課題になる。

論証……

まず、課題文にもあるように、男性は仕事で多忙であることが多く、その役割を担わせることは難しい。家事の一部を分業することが可能であっても、育児や介護のような多くの時間を必要とする家事労働を分担して担うことはかなりの困難を伴う。
筆者はそうした背景も踏まえながら、こうした労働の一部を政治の役割から政府が担うことをある程度容認しているようにおもえる。だが、実行主体が政府である場合、競争の欠如などからその運営は極めて非効率なものになるだろう。民間事業者を活用した場合にも、家事労働や育児労働の分担に伴う財源が大きな問題になる。

解決策or結論……

解決策or結論としては、あらゆる社会保障制度に保険の原理を導入することが考えられる。現状、児童手当や年金・高齢者の社会保険の負担率軽減措置や一般労働者向けの低い社会保険料自己負担率は全ての人々に適用されている。だが、今後は困窮者向けに対する保険としてこれらの諸制度が機能するようにし、ある程度の所得を得ている社会人には自立した社会人としての応分の負担を求めることで、育児や介護という労働の一部の財源を政府が担い、その役割分担の一部を民間事業者が担うことも可能になるだろう。他にも、こうした保険の運用そのものを民間事業者が行い、政府はそれに対する規制緩和を行うことで、政策的誘導
を行うことも可能である。また、その際にはこうした関連事業者の生産性を向上させることで財政的負担を少なくするために、関連の規制をかなり緩和する必要もあろう。

解決策or結論の吟味……

自立した個人のあり方を強く求める新自由主義を始めとする正義の倫理は、確かにそれ自身は極めて大切な考え方である。だが、こうした考え方を成り立たせるためには、競争する個人を背後から支えている社会的弱者の存在がある。そうした人々の苦しみにも目配りをすることで、自由な競争を行うことが出来る健全な社会がより永続的なものになると私は考える。

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