慶應義塾大学 法学部 2016年 小論文 解説

慶應義塾大学法学部 2016年 小論文解説

=問題文=

次の文章を読んで、トインビーの文明観とその根拠を四百字程度でまとめ、世界文 明は「来ようとしている」という指摘について、世界で今起きている具体例に触れつつ意見を述べなさい。

=問題の解き方=

1. 議論の整理

・ 結論 ……

トインビーは西洋文明が非西洋文明に主導権を奪われ、西洋は諸文明の一つに 過ぎなくなり、未来においては諸文明相互の学び合いから一つの調和した世界文明 が姿を現すと考える。

・ 根拠 ……

なぜなら、優位に立つものがその地位の永続を錯覚し精神的緊張を失うのに対 し、下位にある者は緊張を保ち攻守が逆転するに至る「勝利の陶酔」という歴史規 則が存在するためである。

・ 具体例 ……

文明の優位性はナショナリズムとテクノロジーの起因したものだが、たとえ ば、経済形態の変化や非西洋側の抵抗のナショナリズムの誘発によって西洋側のナ ショナリズムが行き詰まりを見せる。また、テクノロジーは他の文明に容易に伝播 するので西洋はこれを独占できない。

2. 問題発見  

こうした世界文明の登場に際して、大きな危惧を抱かざるを得ない事例も存在 する。その一例が、「自由と民主主義」という近代西洋の普遍的な精神の形骸化で ある。

3. 論証

自由と民主主義に代表される個々人を尊重する考え方は、近代西洋で発展し、ほ とんど金科玉条のような形で守られてきた。こうした考え方の根底にあるのは、人 間を尊重するあり方こそが、個々人の創造性を活発化させ、妥当な意思決定の影響 力を増大させ、結果社会の最大利益につながるというものであった。 しかし、こうした近代西洋が培ってきた価値観を共有しえない国々が今日では世 界で主導権を握りつつある。人々を個々人として尊重せず、なかば道具として扱う 文明が世界各地でその影響力を増しているからだ。その代表的な事例としては中国 などの国家主義の国々や、イスラム教の国々である。 こうした国々では、人々の存在はあくまでも社会発展のための手段であり、近代 西洋のあり方と比べると主客が逆転した形になっている。だが、こうした社会のあ り方にもかかわらず、合意形成のコストの安さなども作用して、こうした文明は今 日ますます発展を続けている。

4. 結論

こうした文明の発達と、近代西洋文明の発達と、そのどちらがより顕著な動きを 見せるかについて今後我々はますます注視しなければならない。基本的には、それ ぞれの組織の意思決定が自律・分散しており、優れた意思決定に対し各々の組織が協調する西洋文明のあり方には一日の長があるが、独裁的な意思決定がなされる文 明の影響力がますます強くなるにつれて、我々の自由や人間尊重の文明は著しく影 響力が低下する可能性もある。

5. 結論の吟味

そのような形での世界文明の興隆を迎えないためにも、西洋諸国はそうした趨勢 に危機感を持ちながら、近代西洋文明の再興に力を注がなければならない。

=模範解答=

トインビーは西洋文明が非西洋文明に主導権を奪われ、西洋は諸文明の一つに過 ぎなくなり、未来においては諸文明相互の学び合いから一つの調和した世界文明が 姿を現すと考える。 なぜなら、優位に立つものがその地位の永続を錯覚し精神的緊張を失うのに対 し、下位にある者は緊張を保ち攻守が逆転するに至る「勝利の陶酔」という歴史規 則が存在するためである。 文明の優位性はナショナリズムとテクノロジーの起因したものだが、たとえば、 経済形態の変化や非西洋側の抵抗のナショナリズムの誘発によって西洋側のナショ ナリズムが行き詰まりを見せる。また、テクノロジーは他の文明に容易に伝播する ので西洋はこれを独占できない。 こうした世界文明の登場に際して、大きな危惧を抱かざるを得ない事例も存在す る。その一例が、「自由と民主主義」という近代西洋の普遍的な精神の形骸化であ る。 自由と民主主義に代表される個々人を尊重する考え方は、近代西洋で発展し、ほ とんど金科玉条のような形で守られてきた。こうした考え方の根底にあるのは、人 間を尊重するあり方こそが、個々人の創造性を活発化させ、妥当な意思決定の影響 力を増大させ、結果社会の最大利益につながるというものであった。 しかし、こうした近代西洋が培ってきた価値観を共有しえない国々が今日では世 界で主導権を握りつつある。人々を個々人として尊重せず、なかば道具として扱う 文明が世界各地でその影響力を増しているからだ。その代表的な事例としては中国 などの国家主義の国々や、イスラム教の国々である。 こうした国々では、人々の存在はあくまでも社会発展のための手段であり、近代 西洋のあり方と比べると主客が逆転した形になっている。だが、こうした社会のあ り方にもかかわらず、合意形成のコストの安さなども作用して、こうした文明は今 日ますます発展を続けている。 こうした文明の発達と、近代西洋文明の発達と、そのどちらがより顕著な動きを 見せるかについて今後我々はますます注視しなければならない。基本的には、それ ぞれの組織の意思決定が自律・分散しており、優れた意思決定に対し各々の組織が 協調する西洋文明のあり方には一日の長があるが、独裁的な意思決定がなされる文 明の影響力がますます強くなるにつれて、我々の自由や人間尊重の文明は著しく影響力が低下する可能性もある。 そのような形での世界文明の興隆を迎えないためにも、西洋諸国はそうした趨勢 に危機感を持ちながら、近代西洋文明の再興に力を注がなければならない。

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