慶應義塾大学 法学部 小論文 1993年 解説

・ 問題

次の文を読んで筆者の考えに対する自分の意見 を示しつつ、あなたにとっての「豊かな社会」 とは何かについて述べなさい。

・ 問題の解き方

 5STEPsで書いていく。

・ 模範解答

議論の整理……

筆者は、製造業による貿易を中心に発展した国家が、人件費増により国際競争力を失った後に、内需、特に金融・サービス業中心の国家に移行した際に抱える問題点を提起している。こうした現状認識は、私も筆者と共有する。
その上で筆者は、豊かさの一例として労働時間の短さや自宅から職場への距離の短さなどを挙げているが、こうしたものはもちろんそれ自体は大切な要素ではあるが、「真の豊かさとは何か?」という我々が抱える問いに根源的に答えるものではないだろう。

問題発見……

では、ここで何が真の豊かさなのかについて考えていきたい。
資本主義社会において真の豊かについて考える上では、世界中の商業民族がどのような発展段階をたどっていったかから学べばヒントがつかみやすい。
たとえば、ユダヤ人はそれぞれの居住地で差別をされ農地を持つことが出来なかったため、金融取引などで居住国に地盤を築いてきた。期せずして、日本人も製造業による発展を経て、人件費の安さによる国際競争力を失い、金融・サービス業に移行しなければならない時代にある中で、彼らから学ぶべき点は多い。

論証……

では、ここで我々にとっての真の豊かさとはなにかという問いにこたえるために、まずユダヤ人にとっての真の豊かさとはなにかについて考えてみよう。
まず、課題文にもあるように、我々の真の豊かさを考える上では余暇時間が非常に重要な指標になる。長時間の労働を低賃金で行えば競争に勝つことが出来たかつての高度経済成長期とは異なり、現在の日本ではある程度の余暇時間を確保しながら真の豊かさを実現していく新しい働き方が求められているためである。
ここでユダヤ人の余暇時間について例を挙げると、彼らには日本人がいうところの「余暇時間」がそもそも存在しない。宗教上の理由で金曜日は余暇時間をとるケースが多いが、彼らはその時間に本を読み勉強することを習慣にしている。
同じような習慣を持つ民族としては東アジア地域では韓国人がいる。彼らの教育に対する投資額は学生の場合、一人あたりで見ると日本人の三倍以上にもなる。
彼らがこのように余暇時間でさえ勉強に充てるのは、彼らにとっての真の豊かさが世界中のどこでも知的な労働に就くことができることにあるからである。そのことを示唆するように、彼らが海外に在住し、知的労働を行っている比率は他民族とくらべても突出して高い。
こうした結果の背景にあるのは、ユダヤ系の人々は世界中を移住し続けなければならないほどの迫害に晒されたこと、韓国系の人々については日本と中国による植民地支配の歴史があり、自国のちからを強めることが長い間歴史的に難しかったことがある。彼らのこうした困難が、彼らの勤勉さを生んでいる。
だが、こうした例は日本人にとっても他人事ではない。現に日本の国債の外債比率は徐々に高まっており、2030年ごろには日本が金融の力の差により中国の実質的な支配下に置かれることも十分考えられる。また、企業レベルでも、その企業でしか働けない中高年がその企業にしがみつくことが多いが、こうした事例も世界中のどこでも働ける汎用性の高いスキルを身につけることで少なく舐めるだろう。

解決策or結論……

我々にとっての真の豊かさとは、失われた20年のあいだにその市場規模を着実に拡大してきたパチンコや風俗にお金を使うことではないし、まして海外旅行に行くことでもない。額面上の余暇時間がいくら増えても、そうした方向にお金と時間を使うのは人生の無駄遣いといっても過言ではない。
そうではなく、手に入れることが出来た余暇時間を、自らが世界中のどこでも働くことができる技術を身につけることに使うことにより、私達は我々を雇用している企業や、我々が属している国家に対しより大きな自由を得ることができるようになる。独立した市民として、このことこそを真の豊かさとすべき時代が到来していると私は考える。

解決策or結論の吟味……

こうした余暇時間の取り方は、ただいたずらに消費をするだけの余暇時間と違い、社会保障に頼らない強い国民を生み出し、結果として健全な国家を生み出す。自分自身のためにも、企業・国家のためにも、余暇時間を自己投資に捧げることが必要不可欠であるといえよう。

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