慶應義塾大学 法学部 2018年 小論文 過去問 解説

■ 問題

 次の文章は、現代社会のリスクに我々がどのように対処すべきかを記したものである。筆者の議論を400字程度でまとめた上で、それに対するあなたの考えを、具体例に触れつつ論じなさい。

■ 問題の指針

 法学部の典型的な問題で、400字程度の要約を含めて、1000字程度で論証をする問題になっている。基本的には、要約も論述もこの文字数であれば5STEPを用いることが望ましいが、要約については言及すべき点が多いため、今回は5STEPの議論の整理の共通点と相違点を書く形で書く。

・ 要約

共通点→ 現代社会のリスクへの対応に必要な観点

ここで筆者は、現代社会のリスクへの対応に必要な観点について述べている。

相違点→ リスクを取ることを決めるものとそれによって影響を被る可能性があるもののコミュニケーションについての注意点、リスクを当事者にとって可視的で参与可能なものにするという注意点、信頼に関して不信との関係を再検討する必要性

まず筆者は第一に、リスクを取ることを決める決定者と、それによって影響を被る可能性がある被影響者のコミュニケーションについての注意点として、あくまでも暫定的な了解にとどめておき、客観性による同調圧力や道徳による排除の力に訴えて「説得」してはならないとしている。また第二に、当事者の参与に関して、リスクを当事者にとって可視的で参与可能なものにすべきだとしている。ほかにも第三に、信頼を善とみなして不信を悪とする形で両者の対立を先鋭化させてはならないとしている。これは、不信は将来のリスクの早期発見に役立つという形で、信頼を強化することがあるためである。

・ 論述

議論の整理→ 現代社会のリスク、決定者と被影響者の構造、心理的側面と実在的側面

ここで、筆者が現代社会のリスクとして挙げているものは、決定者と被影響者の構造について着目したものが多く、それぞれの心理的側面と実在的側面に焦点をあてているといえる。

問題の発見→ ローカルナレッジの活用、自己責任論への回帰

ここでは、筆者は心理的側面に特に着目して、被影響者に対しローカルナレッジの活用を求めているが、これは被影響者への自己責任論へと回帰しかねず問題がある。

原因の分析→ 経験がない分野ではローカルナレッジを活用しづらい、信頼は決定者と被影響者の力関係に依存する

そもそも、ローカルナレッジ論の問題として、経験がない分野ではローカルナレッジを活用しづらいという点がある。なぜなら、経験がない分野では、ローカルナレッジがそもそも蓄積していないためである。
また、課題文中に出てくる「信頼」というのも現実には決定者と被影響者の力関係に依存するものであり、こうしたものに依拠して被影響者への自己責任論を主張することには問題がある。

解決策or結論→ リスクの実在的側面の考慮 

ここで私たちが考慮すべきものは、むしろリスクの実在的側面についてである。

解決策or結論の吟味→ 不安の軽減ではなく、不安の認識が大切

多くの場合、現代社会のリスクは心理的側面から考察され、不安の軽減が社会的に要請されることが多いが、大切なことは実在する不安を認識し、それと向かい合うことであり、心理的側面からそれを軽減することではないと私は考える。

■ 解答例

ここで筆者は、現代社会のリスクへの対応に必要な観点について述べている。
まず筆者は第一に、リスクを取ることを決める決定者と、それによって影響を被る可能性がある被影響者のコミュニケーションについての注意点として、あくまでも暫定的な了解にとどめておき、客観性による同調圧力や道徳による排除の力に訴えて「説得」してはならないとしている。また第二に、当事者の参与に関して、リスクを当事者にとって可視的で参与可能なものにすべきだとしている。ほかにも第三に、信頼を善とみなして不信を悪とする形で両者の対立を先鋭化させてはならないとしている。これは、不信は将来のリスクの早期発見に役立つという形で、信頼を強化することがあるためである。
ここで、筆者が現代社会のリスクとして挙げているものは、決定者と被影響者の構造について着目したものが多く、それぞれの心理的側面と実在的側面に焦点をあてているといえる。
ここでは、筆者は心理的側面に特に着目して、被影響者に対しローカルナレッジの活用を求めているが、これは被影響者への自己責任論へと回帰しかねず問題がある。
そもそも、ローカルナレッジ論の問題として、経験がない分野ではローカルナレッジを活用しづらいという点がある。なぜなら、経験がない分野では、ローカルナレッジがそもそも蓄積していないためである。
たとえば、原発事故などの経験がない問題については、私達のローカルナレッジの蓄積は十分であるとはいえないため、こうした問題の解決にローカルナレッジを求めるのは酷であるといえる。
また、課題文中に出てくる「信頼」というのも現実には決定者と被影響者の力関係に依存するものであり、こうしたものに依拠して被影響者への自己責任論を主張することには問題がある。
たとえば、職務上の立場の上下により、「信頼していない」とは表明できない立場にある場合に、「信頼」を自己責任論の根拠とすることは酷である。
ここで私たちが考慮すべきものは、むしろリスクの実在的側面についてである。
多くの場合、現代社会のリスクは心理的側面から考察され、不安の軽減が社会的に要請されることが多いが、大切なことは実在する不安を認識し、それと向かい合うことであり、心理的側面からそれを軽減することではないと私は考える。(956文字)

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