慶應義塾大学 文学部 小論文 2012年 解説

・ 問題文

設問1 ニ人の著者の、書籍の電子化に対する考え方の共通点を、三〇〇字以上三六〇字以内で説明しなさい。
設問2  あなた自身のこれまでの読書経験を踏まえた上で、本の将来像について、三二〇字以上四〇〇字以内で論じなさい。

□ 問題の読み方

・ 設問I
要約問題としてはめずらしい二人の著者の考え方の共通点を答えさせる問題。
要約問題は基本的に、
1. 前提条件
2. 各意見の対立部分
3. 難しい概念の言い換え
4. 具体例の削除
の四要素により成り立つことが多いが、1.のみについて答えさせる問題である。
前提条件を細分化すると、
a. 思考の制約条件
b. 共通の理想
のどちらかであることが多い。課題文を読みながらどちらかの条件に当てはまる文章はないかを見ていこう。

・ 設問II
意見論述問題として難しい問題。
「あなた自身のこれまでの読書経験をふまえて……」とあるが、なにかを論じるときに具体例から考え始めると議論の収拾が付かなくなる事が多い。
まずは、本の将来像について決め、次にその根拠を決め、最後に具体例を出すという形を取った方が良い。
1.結論
2.根拠
3.具体例
の順で構成しよう。そうすれば読み進めるごとに、「どうして? 根拠は?」「どうして? 具体例は?」というふうに読み進めることができ、添削者に楽しく文章を読んでいただくことができる。

□ 課題文の読み方

=A=
・ 電子書籍を使い一週間も立たないうちに、それになじんでいる自分を見いだした。
・ 意外だったのは古典や名著が予想以上に読める事だった。
・ 検索機能により、国ごとの文化の違いを知った。
・ 新聞についてはレイアウトをそのまま残したものが使いやすい。
・ 電子書籍の写真は美しく媒体として魅力がある。
・ 紙の本を電子書籍にしたいが、簡単にはいかない
・ 電子書籍をめぐる議論は迷走を極めて居る。
・ 過去の本に対する各人のイメージにかなりの相違がある。
・ アメリカ資本の攻勢に対し、日本側の対応は鈍い。認識が甘い。
・ 日本は図書館などのデーターを効率的に運用することに不熱心。
・ 一方でヤフーやグーグルは熱心で、歴史的なものではないかと思う
・ 紙の本をそのまま電子書籍にしても、新しい文化創造にはつながらない。
・ 翻訳出版については、日本は情けないほどの入超国
・ 出版業界の低迷を打破するには海外進出が必要
・ 日本の書籍を国際商品へと変える人はいないのか?

=B=
・ これからの本はどうなるのか、これまでの本はどうなるのか?
・ これからの本はこれまで通りであってほしい
・ しかし、電子書籍の方向に進むのは間違いない
・ いままでにも写本から板本への変革でこうしたことはあった。
・ 変化に出来る限りの時間を掛ける事がただ一点の願い
・ これまでの本の運命を左右するのは版権
・ 明示以前の本はほとんどだれにも読めない
・ 必要な古典はほとんど読める形で活字化されていない
・ とりあえず、読める形でなくてもいいから原本のままとりこもう
・ 電子書籍は読めない和本を廃棄せずにすむ福音

□ 解答の指針

・ 設問I
A、Bともに
a. 思考の制約条件
b. 共通の理想
という条件に照らし合わせると、思考の制約条件・共通の理想それぞれに下記のような共通点があることがわかる。
a.思考の制約条件

=A=
・ 電子書籍を使い一週間も立たないうちに、それになじんでいる自分を見いだした。
=B=
・ 電子書籍の方向に進むのは間違いない
・ いままでにも写本から板本への変革でこうしたことはあった。

b.共通の理想
=A=
・ 意外だったのは古典や名著が予想以上に読める事だった。
・ 検索機能により、国ごとの文化の違いを知った。
・ 日本は図書館などのデーターを効率的に運用することに不熱心。
=B=
・ これまでの本の運命を左右するのは版権
・ 明治以前の本はほとんどだれにも読めない
・ 必要な古典はほとんど読める形で活字化されていない
・ とりあえず、読める形でなくてもいいから原本のままとりこもう
・ 電子書籍は読めない和本を廃棄せずにすむ福音
このa.思考の制約条件と、b.共通の理想についてうまくまとめることが大切になる。

・ 設問II
「本の将来像」についてだが、暗に「変革される」という選択肢と、「変革されない」という選択肢が示された場合には、「変革される」という選択肢を選ぶことが王道である。
なぜなら、「変革される」という選択肢を選べば、書く事があるからである。一方で「変革されない」という選択肢を選べば、将来像について特段書く事はなくなるからである。
1.結論
……電子書籍化の方向に向かう。
2.根拠
この場合、とくに電子書籍化をサポートする議論がない場合
i.時代の流れ
ii.場所の流れ
を軸に、なにか本の将来像を変化させるような要因がないかを考える
「i.時代の流れ」については少子高齢化がある。この変化は、従来本を最も読むであろうとされてきた学生層が少なくなり、一方で目が不自由な高齢者層が増えることを意味している。その点、文字の拡大が容易な電子書籍端末は重宝される可能性がある。また、高齢者はメンテナンスが大変な広い家には住まなくなるので本棚も必要なくなるし、本に溜まる埃が健康を害する危険性もあるので紙の本は始末しはじめるという仮説を立てる事もできる。高齢者向け携帯端末のような操作性が高い電子書籍デバイスが生まれれば、これらの要因から普及する可能性がある。これらの要因の中で、自らの読書経験に立脚したものを書けば良い。
「ii.場所の流れ」についてはアメリカなどではすでに電子書籍が普及していることがある。アメリカでヒットしたサービスは、日本でもまたヒットする確率が高いことは自明の理だ。ただ、これは自らの読書経験とはあまり関わりを持たない話だ。
3.具体例
思考プロセスex)
具体例→根拠→結論、の順番に。実際書く時は逆。
・ 昔から世界文学全集が好きで、古本屋で買ってきてはよく愛読していた。
・ だが、そうした本は埃が貯まっているので、持病のぜんそくを悪化されることがあった。
・ そこで埃が出ない電子書籍はありがたい。
また、蛇足だが、電子書籍化をサポートする要因はたくさん出て来ると思うのだが、基本的に自分の読書経験に即した一つの問題に絞り、それ以外については一番最後の「解決策or結論吟味」にすこし紹介するぐらいでいい。とりあげる問題は絞って、それの解決に注力すべきだ。
構成としては、
0,結論
→ 電子書籍化が進む
1.背景事情説明(あなた自身の読書経験)
→ 昔から世界文学全集が好きで、古本屋で買ってきてはよく愛読していた。
2.問題発見
→ だが、持病のぜんそくを悪化されることがあった。
3.論証
→ そうした本は埃が貯まっているので、
4.解決策or結論
→ そこで埃が出ない電子書籍はありがたい。
5.解決策or結論吟味
→ 少子高齢化によって生まれる紙の本を解決する方法としても電子書籍は優れている。少子高齢化は、従来本を最も読むであろうとされてきた学生層が少なくなり、一方で目が不自由な高齢者層が増えることを意味している。その点、文字の拡大が容易な電子書籍端末は重宝される可能性がある。また、高齢者はメンテナンスが大変な広い家には住まなくなるので本棚も必要なくなるし、本に溜まる埃が健康を害する危険性もあるので紙の本は始末しはじめるという仮説を立てる事もできる。高齢者向け携帯端末のような操作性が高い電子書籍デバイスが生まれれば、これらの要因から普及する可能性がある。
というような形で書けば良い。

□ 模範解答

・ 設問I

両者は、電子書籍化を受け入れがたい気持ちをもっていたものの、実際使ってみたら電子書籍化は避けられない流れであることを実感している。
また、電子書籍に期待する両者共通の理想としては、「古典文学の保護」を挙げている。
Aの著者は、日本が欧米諸国と比べて図書館などのデーターを効率的に運用することに不熱心であるとの問題意識をもっている。Bの著者も明治以前の本が保存環境などの制約もあり、ほとんど読める形で残されていないという現状をふまえた上で、同じような問題意識を持っている。
また、それに対し、Bの著者は、電子書籍こそが読めない和本をせめてそのままの状態で保護する福音であるとし、Aの著者もこうした日本文化を電子書籍を通じ世界に発信することで、保護できるのではないかという解決案を持っている。(345文字)

・ 設問II

私は、自らの読書経験を通じ、電子書籍は爆発的に普及すると考えている。
私は幼少期から、世界文学全集を古本屋で買ってきたは、愛読してきた。だが、一冊読み終えると、かならずひどいぜんそく発作に悩まされた。本にほこりが溜まっているためである。しかし、電子書籍の登場によりこうした悩みは解消された。
私ばかりなく、多くの読者にとって電子書籍は福音である。少子高齢化が進む日本では、住宅のコンパクト化による本棚設置場所確保の困難、視力の著しい低下による文字判読困難者の増加など、紙の本の販売には厳しい条件が揃いに揃っている。電子書籍はこれらすべての問題を解決する。高齢者が情報端末を使いこなせるか否かの懸念もあるが、高齢者向け携帯端末のような操作性が高い電子書籍デバイスが生まれればそうした問題も解決されるだろう。(355文字)

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