新潟大学 法学部 前期日程 2023年度 小論文過去問解説(緊急避難と生命の衝突)
問題【解説】
設問条件の判定
- 制限字数: 1000字以内
- 意見論述の要求: あり
- 選択テンプレート: 5STEPs法
- 判定根拠: 海で遭難したXが一人用の浮輪をめぐってYを突き飛ばした行為を、法的・倫理的にどう評価するかを論じる問題であるため。
設問文
海水浴中のXとYが沖に流された。Xは、たまたま流れてきた浮輪につかまることができた。ところが、Yも、その浮輪にしがみつこうとした。この浮輪は一人用なので、二人の体重を支えることはできない。そこで、XはYを突き飛ばした。Xの行為をどのように評価すべきか、あなたの考えを1000字以内で述べなさい。
解答プロセス
5STEPに当てはめた書き方
STEP1 議論の整理
XもYも生命の危険にさらされており、浮輪は一人しか救えない。Xの行為は、自分の生命を守る行為である一方、Yの生命を危険にさらす行為でもある。
設問要件対応: 事案の対立利益を整理する。
STEP2 問題発見
問題は、生命対生命の衝突で、自己保存のために他人を排除する行為をどこまで許せるかである。
設問要件対応: 「Xの行為をどう評価すべきか」の核心を示す。
STEP3 論証
言い分方式を用いる。Xには自分の生命を守る理由がある。しかしYにも同等の生命価値がある。第三者の視点では、Xの行為を積極的に正当化することには慎重であるべきだ。
設問要件対応: 賛否双方の根拠を検討する。
STEP4 結論
Xの行為は強く非難しにくいが、完全に正当な行為ともいえず、責任を減軽・免除する方向で評価すべきだと述べる。
設問要件対応: 自分の立場を明確にする。
STEP5 吟味
ただし、Xが必要以上の暴力を加えた場合や救助可能性があった場合には評価は変わる。
設問要件対応: 事実条件による限界を示す。
問題【解答】
Xの行為は、人を突き飛ばしたという点では重大であるが、通常の暴力行為と同じように強く非難することはできないと考える。XとYはともに沖に流され、生命の危険にさらされていた。しかも浮輪は一人用であり、二人がつかまれば沈む可能性が高い。この状況では、Xが浮輪を守ろうとしたことには、自己の生命を維持するための切迫した理由がある。
しかし、だからといってXの行為を全面的に正当化することにも慎重であるべきだ。Yもまた死の危険に直面しており、その生命の価値はXと同じである。Xが先に浮輪につかまったとしても、それだけでYを排除してよい権利が当然に生じるわけではない。生命と生命が衝突する場面では、「先に得た者が相手を犠牲にしてよい」と簡単に言えば、弱い立場にある者の生命を軽く扱うことになりかねない。
したがって、Xの行為は違法性や責任を完全に否定するというより、緊急状態に置かれた人間の限界を考慮して、責任を減軽または免除する方向で評価するのが妥当である。Xには、Yを助ける余裕も、別の安全な手段を冷静に選ぶ時間もほとんどなかった。法は人に英雄的な自己犠牲まで要求すべきではない。自分も死ぬかもしれない場面で自分の生命を守ろうとした行為は、道徳的には痛ましいが、強い処罰にはなじまない。
もっとも、評価は事実によって変わる。XがYを必要以上に強く攻撃した場合、近くに別の救助手段があった場合、二人で短時間なら浮輪につかまり救助を待てた場合には、Xの非難可能性は高まる。反対に、二人でつかまれば確実に沈み、XもYも死亡する危険が大きかったなら、Xへの非難はさらに弱まる。結論として、Xの行為は正しい行為とまではいえないが、極限状況での自己保存として、処罰や非難を大きく抑えて評価すべきである。
字数カウント: 738字



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