- 議論の整理
超高齢化社会を迎えているわが国においては、健康寿命の延伸が課題となっている。スポーツ活動を通じた身体活動量の増加は高齢者の健康維持の為に大きく寄与すると考えられているが、その科学的なエビデンスについては未だ十分な検討がなされているとは言い難い。スポーツ生理学は、運動という刺激に対して生体が応答あるいは適応するまでの物理的プロセスを明らかにしようとする学問であり、この研究領域がもたらす知見は肥満や高血糖、高血圧等の疾患に対する運動療法を開発し、その効果を評価する上で欠かせないものである。
- 問題発見
生命現象そのものを扱う生理学に基づいた運動療法の開発は、運動が生体に与える影響についてのより本質的な理解のもとに行われる為に一般性が高く、医療機関での治療プログラムに留まらず、個人レベルでの疾患の予防にも有用である可能性が高い。柴田らは膝痛や腰痛を有する高齢者を対象に地域で実施可能な要介護予防の為の水中運動プログラムの開発を行い、その効果を評価しているが、このプログラムが疼痛を改善するプロセスについて解明することはできないだろうか。
- 論証
先行研究が明らかにしたことの一つに、変形性膝関節症等の慢性的な疾患を抱えた虚弱高齢者における水中運動プログラムの介入がその有酸素能力や筋力、バランス能力の改善に働くということがある。この知見を踏まえ、水中運動がもたらすこれらの身体能力向上がどのように症状改善に繋がるのかを検討したい。また、生理的な変化と主観的健康度との相関関係についても調べたい。
- 結論
水中運動は浮力による関節への負担軽減や水圧による静脈還流の促進が期待できるほか、転倒による障害リスクが回避できるという陸上での運動療法には無い利点が存在する。本研究はそのような水中運動の実用の可能性を提示するものであると考えており、その点において大きなやりがいを感じている。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本のスポーツ生理学研究において数多くの論文を執筆している村岡教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
柴田愛、岡浩一朗 (2010) 「介護予防における運動器疾患対策-膝痛・腰痛の自己管理戦略としての運動のエビデンス-」『体育の科学』 60, 674-679
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