- 議論の整理
学習や運動制御などにおける複雑な脳の活動のメカニズムについては未だ分からないことが多い。脳の働きを解明する手法としては、解剖学や生理学のような脳の構造的特徴に着目するというアプローチが伝統的に取られてきた。しかし近年になり、脳の情報処理過程を観察しモデル化することで脳活動を理解しようとする計算論的神経科学とう分野が発展してきた。このアプローチは環境に対して反応するという、より動的かつ本質的な脳の機能を明らかにするうえで大いに重要な位置を占める。
- 問題発見
当該領域において、大須教授らは随意運動制御という脳の働きに注目し、これを理論的に解明してきた。その知見によれば、脳による運動制御はフィードバック運動制御とフィードフォワード運動制御の2種類に分けられるという。前者が比較的遅い運動時に、即時的に誤差調整を行う一方で、後者は速い運動に対して行われるものであり、目標軌道を予測しそれを遂行するように運動指令を伝えるという仕組みを持つと言われている。さらに教授らはこの応用例として、片麻痺上肢のリハビリテーションにフィードフォワード制御を導入することを検討し、一定の効果があったことを報告している。このフィードフォワード制御の質を規定する要因は何なのだろうか。
- 論証
フィードフォワード制御の質は目標軌道の精度と適切な運動器制御によって決まると考えられるが、ここでは目標軌道の精度が如何にして向上するかについて検討したい。目標軌道を構築する為には、中枢神経内に運動器の情報が蓄積されている必要がある。先行研究では、この情報は主に小脳で保持されていることが分かっている。そこで、小脳の働きと内部モデルの質について分析を試みたい。具体的には、小脳に負荷をかけた状態でのフィードフォワード制御の精度を定量化したいと考えている。
- 結論
脳による運動と学習の仕組みを解明することは、既存の運動療法を改善する為の一助とすることが期待できる。
- 結論の吟味
上記研究を行うにあたって、日本の神経科学領域において神経回路に関する理論的なアプローチを行い、数多くの業績を残している大須教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
Osu, K. Morishige, J. Nakanishi, H. Miyamoto, M. Kawato (2016). Practice reduces task relevant variance modulation and forms nominal trajectory. Scientific Reports. 5
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