早稲田大学 教育学部 外国学生入試 志望理由書 提出例(神尾達之ゼミ向け)

■議論の整理

科学技術は人々を啓蒙するものだった。神がまだこの世にいた時代には、世界は紙の物で、人間は亜種として存在していたし、私たちの理性には光が宿っていなかった。科学がその合理性を主張し、神秘を次々に解体していくことで私たちは理性を手にすることができた。科学は啓蒙のよき並走者だった。

 

■問題発見

ピュグマリオンコンプレックスと呼ばれる欲望がある。人形を人々が愛することは、性愛まで発展した一種の倒錯的欲望を引き起こす。古くは人形愛とも呼ばれる変態心理があることをクラフト=エビングは記しているが、この欲望は、その後も女性への欲望に姿を変え、返送されて生き残っている。この他者を必要としないナルシシスティックな欲望を精神分析的に説明するならば、本来他者に向かうはずのリビドーが欲望主体に戻ってくることで、私の閉域の中での他者として(それはすでに他社ではないのだが)表れる。それがピュグマリオン的欲望であり、現実と接点を持ったものが擬似的な他者だ。

 

■論証

一時期映画内の表象としても散見された魔性の女(ファムファタール)表象もこのピュグマリオン表象の一種だと考えることができる。魔性の女は、男の手によって教育されなければならい一つの人形である。このような他者を自己の中に引きづり込もうとする欲望は、社会問題にもなっているデートDVの件数が増えていることにも表れているかもしれない。私たちはピュグマリオン的欲望をどう制御するかが重要だというのもあながち言い過ぎではないだろう。

 

■結論

しかし一方で、他者を全く必要としない、完全な閉域の中でピュグマリオン的欲望を充足させることができるのが、現代の科学技術だということもできる。欲望をVRで満たし、全く他者不在の状態で、AIが作動すれば、そこはピュグマリオン的欲望がめくるめく充足される夢の世界だ。科学とは啓蒙の謂いだったはずだが、いまや欲望にまみれた野蛮が舞い戻ってきている。

 

■結論の吟味

現代の科学技術が目指している方向は、ピュグマリオン的欲望の回帰である。他者を介在させないことに私たちは進化のかじを切っていると言えるかもしれない。それが果たしていいことなのか、わるいことなのかはわからない。人間の想像力と欲望の歴史を自分なりに体系化してみたいと考え、貴学への入学を希望する。

 

※1神尾達之「変態の変態――《ピュグマリオン的欲望》と《現実》の中での《擬似他者》――」『学術研究 人文科学・社会科学編』早稲田大学教育・総合科学学術教育会 66 2017

 

 

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