- 議論の整理
イギリス帝国のオーソドクシーの牙城ともいえるオックスフォード大学においてペイターは極めて異質な存在であった。彼の芸術至上主義は余りに苛烈であり、保守性を重んじる当時のヴィクトリア朝知識人はペイターの先進的な思想を受容しなかったが、彼自身もそれをよしとしていたと私は考えていた。しかしながら、舟川教授の論考を拝読することで私自身のペイター観は大きく変化した。
- 問題発見
舟川教授はペイターが1875年から78年にかけて執筆した4本のギリシア神話に関するエッセイを題材に、彼独自の古代ギリシア人論が形成されていった経緯を論じている。教授によれば、ペイターのエッセイが書かれた動機は主にかつての師であったジャウエットをはじめとするオックスフォード学内の人間という彼にとっての「世間」との「和解」であったという。その為に、彼は従来の古典人文学によるギリシア神話解釈をさらに発展させるべく、発見的科学の手法を取り入れた合理的な神話解釈を生み出すに至ったのである。それでは、ペイターのギリシア神話論はオックスフォードの中でどのように受容され、後の人文学に影響を与えたのだろうか。
- 論証
彼の神話論が従来の知識人層に共有されていた古代ギリシア人観を一部否定するものであったことは知られている。彼が神話から読み解いた古代ギリシア人の要素は理性的人間からかけ離れた原始性や暴力性であった。しかしながら、彼はこの原始的情動にこそ芸術活動の根源を見出している。そして人間を理性化したキリスト教を含む通俗宗教にもこのエッセンスを探ろうとしたのである。それは壮大な試みであったが、人間の情動に価値を求めるという点で彼の姿勢は一貫しており、私はペイターのこの目論見が成功を見たのか検討したいと考えている。
- 結論
上記研究を行うにあたって、これまで貴学において数多くの英国文学研究を行い、ペイターに関する論文を執筆してきた舟川教授のもとで学ぶことを強く希望する。
参考文献
舟川一彦 (2020). 「ウォルター・ペイターのギリシア神話論と19世紀古典学の新方向」『英文学と英語学』 56, 1-24
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