上智大学 法学部 地球環境法学科 レポート等特定課題 2019年 小論文 解答例

■設問

具体的な環境問題を一つ挙げ、環境保護において法が果たす役割を論じなさい。

■答案

議論の整理→公害問題にみる法の役割とその意義

産業発展と技術革新が進み続ける現代において、環境問題は比例して拡大し続ける社会問題といっても過言ではない。特に人為的な要因により発生する地球環境問題や公害問題は法的規制による対策が重視されており、環境問題を対象とした法制度の一刻も早い適正化が課題となっている。環境問題への世界的な取り組みは世界大戦後の経済発展に付随して始まった。終戦を迎え世界的な経済発展と共に大気汚染などの環境問題が一気に表面化し始めた頃、1972年スウェーデンのストックホルムにて国際連合人間環境会議が開催される。これこそが明らかになる環境問題の加速化を前にして世界的に行われた初めての政府間会合で会った。この歴史的な会議では「人間環境宣言」が採択され「国際連合環境計画」が設立される。前者は環境問題が人類発展の為の脅威であることを前提に人間環境の保全と向上を目指す宣言であり、後者はその目的達成のために専門的な取り組みを可能とする政府間での国際組織であった。この宣言と設立によって法による環境保護対策への関心は世界規模での高まりを見せる。一方高度経済成長期にあった日本では1956年に発見された水俣病の発生によって公害問題への関心が広がり1964年には公害対策推進連絡会議が設置された。

問題発見

本論ではこの日本で環境保護が叫ばれる要因となった公害問題を例にして、環境保護に向けて法の果たす役割を確認していきたい。

論証

水俣病とは熊本県水俣市においてメチル水銀を含む有害の工業廃水が水俣湾に廃棄されていたことに起因する。工業廃水に含まれたメチル水銀は魚介類による食物連鎖の中で生物体内を通じて濃縮されていき摂取していた魚介類は汚染されていった。その事実を知らない人間がメチル水銀に侵された魚介類を食したことでメチル水銀中毒症を発症させたのが水俣病の正体である。水俣病患者は軽度から重度のものまで様々な症状を見せたが、環境問題への関心がまだ浅く表面化していないことも手伝って原因の特定は困難を要した。しかしメチル水銀が特定され工場の処分方法が問題であったことが判明すると、技術革新による環境破壊の実態が人間の生命を脅かすものであることと同意義であることと認識され、日本における環境保護への関心が高まっていく。実際的な被害によって確認された環境汚染問題に対し、政府は法的に対処すべき国家規模での社会問題であることを認め1967年に公害対策基本法を公布し即日施行するに至った。これは水俣病を初めとして次々に発生した公害病を受け制定された、公害対策全般に対する日本の基本法となる。同法は1993年の環境基本法の施行に伴い統合されたものの大部分は環境基本法へそのまま引き継がれている。

問題発見

ではこの法律の施行によって日本における環境問題はどのような変容を遂げたのだろうか。

論証

公害対策基本法では水俣病の原因となった工業廃水などの処理に対する事業者の責務が明らかにされたほか、国や地方公共団体、住民に対しても公害防止のための基本的責務が提示された。また既に公害が発生する可能性のある地域に対しては、公害防止計画と呼ばれる発生源への規制や土地利用の見直しなど公害の防止についての総合的な施策の計画書の策定指示がなされた。これらの例から日本政府の公害を国家全体で阻止していこうとする姿勢が伺える。しかし私はこの基本法の制定が大きく動かしたのは国民の意識であると考える。これまでは一部の問題として扱われてきた公害問題の人体への悪影響は、水俣病によりセンセーショナルな国家的規模の問題として国民の意識に植え付けられた。そこで法的措置として基本法が正規に発表されたことにより国民はその国家的問題の阻止を基本的責務を負う形で意識し始める契機となった。大気汚染や水質汚染、環境問題の発端は大体が人間の文化的経済的成長の影に表裏一体で存在している。しかしその影に気付くのは問題が起こってからの場合がほとんどである。

問題発見

では対して法律とは一体何であろうか。

論証

法律は人間が定めた人間への社会的秩序の規範であり、持続可能な社会を目的として活用される。この持続可能性を求める時に立ちはだかるものこそ環境問題といった社会問題であり、前述した例の通りその衝突が起こることによって初めて環境問題は社会問題と成り得る。もちろん環境保護において法が果たす役割には、環境整備や持続可能な社会に向けての規範や規則の共有が挙げられる。

結論

しかしその前提として国民一人一人が環境保護を社会的問題であるとする問題意識の共有も法は担っていると考えられる。事実として拡大する環境問題は公害対策基本法より、1970年の公害対策本部の設置から翌年1971年の環境庁の新設に対する閣議了解、そして2001年の環境省の設置に導いたといえる。

結論の吟味

環境保護は現在世界的規模で展開されている運動であり人類の存続における重要な課題だ。しかしその課題を乗り越えるためにこそ問題意識と取るべき規範の共有が法によって行われるべきなのである。

 

(計2022字)

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