上智大学 法学部 地球環境法学科 海外就学経験者入試 2018年 小論文 解答例

■設問

次のAの文章は、ある原子力発電所に関する裁判の判決の一部の抜粋、Bの文章は、日本のエネルギー政策に係るある行政計画の一部の抜粋である。この二つの文章を読み、原子力発電所の稼働は是か非かについて、理由を付して論じなさい。是とする場合はAの文章に対し、非とする場合にはBの文章に対し、それぞれどのように反論すべきかについても論及しなさい。(800字以内)

■答案構成

結論 → 非である

論証1 → 結論の根拠:生命を脅かし重大な環境汚染をもたらす危険があるから

論証2 → 根拠の背景:生命は何よりも価値がある

論証3 → 原子力発電所稼働の他の危険性

議論の整理 → Bの主張:原子力発電はコストが低く、二酸化炭素を排出しない

論証4 → Bへの反論:Bの述べている課題はすべて解決可能

結論の吟味 → 冒頭の結論の確認

■答案

結論 → 非である

私は原子力発電所の稼働に非の立場をとる。

論証1 → 結論の根拠:生命を脅かし重大な環境汚染をもたらす危険があるから

なぜなら、判決文にあるように、原子力発電所で「深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす」からである。そしてそのことは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故や2011年の福島第一原子力発電所事故で既に明らかである。被害は人命にとどまらず、その環境汚染は非常に長期的で危険なものである。

論証2 → 根拠の背景:生命は何よりも価値がある

判決文にあるとおり、人の生命は何よりも価値があるもので、それは憲法上の権利である人格権の基盤である。原子力発電所がたとえ電気生産という、社会的に重要な目的をもっていても、その稼働は法的には経済活動の自由に属するものであり、憲法上の人格権より下位に置かれるべきものなのである。

論証3 → 原子力発電所稼働の他の危険性

原子力発電所稼働の危険性はそれだけではない。使用済み核燃料の再処理に関わる危険性や排水による海洋汚染も見逃せない問題だ。

議論の整理 → Bの主張:原子力発電はコストが低く、二酸化炭素を排出しない

たしかに、Bの文章の主張のように、エネルギー自給率が極めて低い我が国にとって、原子力発電は有益な発電方法だという意見もある。コストが低く、二酸化炭素を排出しないというメリットがあるからだ。また、原子力の代わりに化石燃料を使って発電することで二酸化炭素が大量に発生し、企業のライフサイクルアセスメントに悪影響を及ぼして企業の海外移転加速につながるおそれもあるという。

論証4 → Bへの反論:Bの述べている課題はすべて解決可能

だが、それらは克服できる課題である。二酸化炭素の排出を防ぐためには、化石燃料に頼らずにクリーンな再生可能エネルギーを利用すればいい。現在はまだコストが高く供給が不安的であっても、国が技術開発を推進すればいずれ克服できる問題である。また、企業のライフサイクルアセスメントという課題も長期的にみればクリーンエネルギーの利用により解決する筈である。

結論の吟味 → 冒頭の結論の確認

以上のように、人間にとって何よりも大切な生命を守り、重大な環境汚染を防ぐという観点から、私は原子力発電所の稼働に反対する。(792字)

 

私は原子力発電所の稼働に非の立場をとる。

なぜなら、判決文にあるように、原子力発電所で「深刻な事故が起これば多くの人の生命、身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす」からである。そしてそのことは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故や2011年の福島第一原子力発電所事故で既に明らかである。被害は人命にとどまらず、その環境汚染は非常に長期的で危険なものである。

判決文にあるとおり、人の生命は何よりも価値があるもので、それは憲法上の権利である人格権の基盤である。原子力発電所がたとえ電気生産という、社会的に重要な目的をもっていても、その稼働は法的には経済活動の自由に属するものであり、憲法上の人格権より下位に置かれるべきものなのである。

原子力発電所稼働の危険性はそれだけではない。使用済み核燃料の再処理に関わる危険性や排水による海洋汚染も見逃せない問題だ。

たしかに、Bの文章の主張のように、エネルギー自給率が極めて低い我が国にとって、原子力発電は有益な発電方法だという意見もある。コストが低く、二酸化炭素を排出しないというメリットがあるからだ。また、原子力の代わりに化石燃料を使って発電することで二酸化炭素が大量に発生し、企業のライフサイクルアセスメントに悪影響を及ぼして企業の海外移転加速につながるおそれもあるという。

だが、それらは克服できる課題である。二酸化炭素の排出を防ぐためには、化石燃料に頼らずにクリーンな再生可能エネルギーを利用すればいい。現在はまだコストが高く供給が不安的であっても、国が技術開発を推進すればいずれ克服できる問題である。また、企業のライフサイクルアセスメントという課題も長期的にみればクリーンエネルギーの利用により解決する筈である。

以上のように、人間にとって何よりも大切な生命を守り、重大な環境汚染を防ぐという観点から、私は原子力発電所の稼働に反対する。(792字)

 

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