■ 議論の整理・・・
真性粘菌(Physarum polycephalum)はアメーバ状の単細胞生物で,複数のえさを周囲に置くと,栄養吸収量を最大化すべくすべてのえさを最短経路で結ぶ形状に変形する。これは,中央集権型情報処理系をもたない粘菌が,ある種の最適化問題を自律分散的な方法で解く計算能力を有することを意味する。つまり粘菌は,時空間振動ダイナミクスを自己組織化した,高度な情報処理能力を有する超並列計算デバイスと見なせる。この粘菌計算器の優位性や適用可能性を探ることで粘菌計算ダイナミクスの本質をアルゴリズムとして抽出できれば,それをロジックとして実装したソフトウェアやハードウェアの開発に応用できる。
■ 問題発見・・・
一般に,膨大な候補の中から最適解を効率的に探索する手法には,時系列上因果的相関がない確率的ノイズをゆらぎとして活用するものが多い。一方,ダイナミクスをもつエージェントは,時空間的相関を保ちながら動作する。では,ダイナミクス由来の時空間的相関をもつゆらぎを活用した探索は,確率的ノイズをゆらぎとして用いる探索と比較して,どのような優位性があるだろうか。
■ 論証・・・
貴学環境情報学部の青野真士准教授らは,粘菌の分枝の嫌光応答ダイナミクスから着想を得て,「綱引きモデル」と呼ばれる並列探索アルゴリズムを考案し,「多腕バンディット問題」において効率的な解探索を実現した(*2)。綱引きモデルは,当時最強のアルゴリズムを凌駕する高効率を示した(*2)。綱引きモデルにおける粘菌の分枝は,環境情報収集を並列的に実行する際,体積の総和を保存しながら伸縮を繰り返すため,分枝間に非局所的相関が生じる。綱引きモデルの高効率は非局所的相関に因する(*2)ことから,非局所的相関を保ちつつ並列動作が可能な,粘菌のような時空間振動ダイナミクスをもつ素材が,限られた情報収集で,より正確に,より早く,合理的な意思決定を実現できる優位性を有することを示唆している(*1)。
■ 結論・・・
そこで,AIに粘菌アルゴリズムを深層学習させることにより,囲碁・将棋において最適手を選択する意思決定戦略最適化アルゴリズムを導出し実行環境に実装することで,プロ棋士を負かせたAI囲碁・AI将棋とのアルゴリズム的優越性を比較してみたい。
■ 結論の吟味・・・
貴学の青野真士准教授は,粘菌による自然計算アルゴリズム研究の第一人者であり,研究実績も豊富であることから,青野真士研究会は上述の研究に最適の環境である。ゆえに貴学SFCに入学し青野真士研究会に入会することを強く希望する。
(*1) 青野真士.“真性粘菌アメーバの時空間振動ダイナミクスによる自己組織的計算”,Electrochemistry, Vol.78, No.9, pp.779-782, 2010
(*2) Song-Ju Kim, Masashi Aono, Masahiko Hara. “Tug-of-war model for the two-bandit problem: Nonlocally-correlated parallel exploration via resource conservation”, BioSystems, Vol.101, No.1, pp.29-36, 2010
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