■議論の整理論
国際責任法理論は今世紀において大きな発展をとげた連盟および国連における国際責任に関する法典編纂作業において、国の国際責任に関する法は主として外国人の取扱に関する規則から一般原則へとその対象が変化した。そこでは、国の国際犯罪概念についても討議され、対抗措置、紛争解決手続を含む草案が 国連国際法委員会によって作成されつつある。また、責任に関連する諸国の実行も積み上げられている。
一方、戦争法および武力紛争法の分野においても20世紀に多くの条約が締結され、多数の国の実行が積み重ねられてきている。武力紛争法に関するヘーグ規則とジュネーヴ規則とから成立していた分野に、戦争の違法化、武力行使・武力による威嚇の禁止が与えた影響は大きい。ここで検討の対象とする戦争法および武力紛争法とは、戦争違法化の状況の下でなお生じている武力衝突において適用される法規を指している。
戦争法および武力紛争法とともに、戦争の違法化、武力行使・武力による威嚇の禁止を規定する国際法が存在しており、これらの法規違反から生ずる国際法の状況については、例えば責任に関連して、国の国際犯罪を、また、個人についての国際犯罪を国際法は規定しようとしている。特に、国の責任が狭義の戦争犯罪違反から生ずる場合について、国と個人双方の責任をどう取り扱うかという課題が存在している(*1)。
■問題発見
ここで,国の責任が狭義の戦争犯罪違反から生ずる場合における課題について改めて考えてみたい。
■論証
国の国際犯罪概念は責任論においては20世紀の後半になって登場したものであり,個 人の国際犯罪も両世界大戦を経験して発展してきたものと解される。これに対して国の戦争法・武力紛争法違反より生ずる国 際責任は20世 紀 の初頭に条約中に規定され、それが、戦争違法化の大きな影響を受けつつも存在しているものである。
20世紀の初頭において主張されたアンツィロッティの責任に関する考え方は、それ以前 には原則として容認されていた過失責任に対して、国の主観的要因としての過失 を問題 にすることは、特定の場合に限定される点である。20世紀を通じて、国際機構そして個人をも国際法の主体であると位置付けられるようになってきた.また,特 定の分野で個人の主観的要因としての故意・過失を問うことのできる 国際法の整備がなされつつあると考えられる。アンツィロッティの時代に国のみが主体であり、その客観責任が主張された国際社 会と21 世紀の国際社会がどのように異なるのかを検証することが求められる。
戦争法・武力紛争法違反について個人の責任が国際的に問われる可能性があるなかで、国の責任はどのような形態で存続しうるのかについては、21世紀における国の果たすべき機能を考察することが必要である。国際刑事裁判所の設立により、個人が国際的手続により処罰されることになることは、国の責任の観点からも興味深い。
しかし、過失の問題については責任に関する条約は存在していない。その意味で は,責任論の一般的理論的構築と並行して、違法性認定の明確化のために第一次規範への責任条項 の積極的な挿入を検討すべきである(*1)。
■結論
そこで国際法上における個人、国双方の責任の在り方を検討することで、国際法の責任条項の積極的な挿入可能性について研究したいと考えている。
■結論の吟味
上述の研究を遂行するため,貴学法学部法律学科に入学し,国際法を専門に研究している大森正仁教授の研究会に入会することを強く希望する。
※1大森正仁(2001)「国際責任法理論と戦争法・武力紛争法」世界法年報 2001 (20), p58-76
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