慶應義塾大学 法学部法律学科 FIT入試 志望理由書 提出例(佐藤 拓磨研究会向け)

■議論の整理論

ドーピングの歴史は長く、元々は狩猟や闘争の際の恐怖心や眠気を克服する ために興奮作用を有する植物等を摂取することを意味していたとされる。それが、19 世紀に入り、競走馬や競争犬に対して、競技力を高めるためにヘロインやモルヒネ、コカイン、カフェイン等を使用することを指すものに変容し、さらにその後、人である競技者自身を対象とした不正な薬物使用を指す概念と なるに至ったといわれる。

競技力を高めるための薬物等の不正使用という定義は、今日でも、スポーツ におけるドーピングの中核部分を示す定義として通用するものである。しかし、 スポーツ競技上の不正行為として制裁の対象となる行為の定義としては不明確 であり、また、制裁の対象とされるべき行為のすべてを包含できるものでも い。そこで、スポーツ競技におけるドーピング・コントロールを行う機関の規 程においては、ドーピングにあたる行為を列挙する形で定義が示されている。 具体的には、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency〔略称:WADA〕)の制定する「世界アンチ・ドーピング規程」により規定されている。

我が国では、スポーツ選手による覚せい剤等の薬物使用の問題(または疑惑) はたびたび報道されるものの、そのような違法薬物以外で、ドーピング・コン トロール機関の指定するドーピング剤を意図的に用いた悪質な事案は目立たな い。そのため、国内的には、その犯罪化を基礎づける立法事実はないようにみえる。2020 年に開催される予定の東京オリンピックに向けて、ドーピング対 策強化の方針が打ち出されているが、そこでも刑事罰の導入は見送られる公算 だという。 しかし、ドイツの反ドーピング法のように、国外犯処罰規定を持たない法律を整備する国が増えた場合、オリンピックをはじめとする国際競技会の開催地がどこかによって、処罰可能性の点でバラつきが生じることに なってしまう

(*1)。

 

■問題発見

ここで反ドーピング法を導入する際に与える影響に関する課題について改めて考えてみたい。

 

■論証

WADA は、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee)の招集 により 1999 年にスイスのローザンヌで開催されたドーピングに関する国際会 議で設立が決せられた団体である。その設立目的は、国際機関、各国政府、公 的機関および私的機関と共同して、スポーツにおけるドーピングを防止することにある。

ドイツについても、度重なる「外圧」によりドーピング対策の強化が行われ、本法律の成立に至ったという経緯がある。ドイツの議論で参考になるのは、まず、他人に対するドーピングへの対応として傷害罪の成否が、自己ドーピングへの対応として詐欺罪の成否が検討されていたという事実である。ドイツのように同意傷害に関する「良俗条項」がな く、重大な傷害の場合にのみ同意を無効とすべきだという見解が強い我が国で は、傷害罪で対応できる範囲には限界がある。軽度の健康侵害を伴うにすぎない場 合でも、傷害罪を認める余地はある可能性がある。これに対し、詐欺罪での対応は、我が国でも応用可能だと思われる。

また、立法論的な観点からは、ドイツの反ドーピング法が、複数の視点から ドーピングの当罰性を説明していることが注目される。すなわち、他人に対するドーピング剤等の使用やドーピング剤を拡散する行為については健康侵害的 な面から説明し、自己に対するドーピングについては不正競争という面から説明していることである。とりわけ後者の発想からドーピングの犯罪化の問題を 検討することは、従来、我が国ではあまりなされてこなかったことであり、 大いに参考になるため、今後とも検討すべきである(*1)。

 

■結論

そこでドイツのハンド―ピング法の成立過程を検討し、我が国のドーピングにおける刑法の役割について研究したいと考えている。

 

■結論の吟味

上述の研究を遂行するため,貴学法学部法律学科に入学し,刑法を専門に研究している佐藤拓磨教授の研究会に入会することを強く希望する。

 

※1佐藤拓磨(2017)「ドイツの『スポーツにおける反ドーピング法』について」慶應法学 (Keio law journal). No.37 (2017. 2) ,p.369- 392

 

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