慶應義塾大学 FIT入試第2次選考 法学部政治学科 2006年グループ討論 解答例

2006年度FIT入試第二次試験概要(政治学科)

3.グループ討論の概要

  • テーマ:『翻訳と異文化理解』
  • 司会者の有無:教員が司会役を務めるが、進行とタイムキーピングのみを行い、受験生の自由な議論にまかせる。
  • 討論時間:60分

4.発表と質疑応答の概要 •発表と質疑応答時間の配分:各15分程度、合計30分

*自分がこれまで行ってきた活動や入学後の目標と構想を自由に表現する。

※グループ討論と発表と質疑応答の順番:午後のグループ討論と発表と質疑応答は、受験生によって順番が異なる。

 

■想定される議論

それでは、「翻訳と異文化理解」について議論をしましょう。

《翻訳によって知ることができること》

まず、翻訳によって知ることができることには、どのようなことがあるでしょうか?

古くは、江戸時代、オランダや中国といった国からの文化を学ぶために、蘭学といった学問が存在し、海外からの知識を吸収するために活用されました。特に、医学書として、「解体新書」が翻訳・出版されてからは、語学、自然科学、測量術、歴史、人文科学といった分野の知識がオランダから日本にもたらされ、日本の学問に多大な影響を与えました。翻訳によって、今までなかった知識を知ることになり、様々な分野に活用され始めたわけです。特に、蘭学は国防のための学問として活用されました。こういった意味から翻訳は、異文化を理解し、自国の文化を大きく発展させるきっかけになることがわかります。

さらに古い時代では、仏教の漢文の経典を中国から輸入しました。この漢文の経典も、日本の学問的な探究のために活用され、比叡山の延暦寺や、高野山の金剛峯寺などのお寺が建造され、仏教文化が花開く源流になったと考えられています。そのため、新しい知識や世界観を手に入れ、今までと異なる考え方を翻訳によって手にすることができると言ってよいだろうと思います。

《「異文化を理解する」とはどういうことか?》

さて、では、「異文化を理解する」とはいったいどういったことでしょうか?まず、風習や考え方が違う文化の間では、お互いの意思疎通が難しくなると考えられます。お互いの意思疎通が難しくなる原因は、それぞれの風習や風習の元となる考え方を理解することができないからです。簡単な例を挙げれば、日本人のお辞儀の習慣があります。お辞儀について何の説明を聞かずに欧米人が見たときは、何をしているのか理解ができないだろうと想像します。欧米人にとっては、親しい挨拶は握手をするものだからです。彼らには、お互いの苦労をねぎらってお辞儀をすることに、どのような心のふれあいがあるのかということがすぐには理解できないはずです。さらに困ったことに、握手を知らない日本人に対して、欧米人が急に握手をしはじめたら、日本人のほうが「急に手を握られた」とびっくりしてしまうはずです。欧米人からすれば、「敵意がないのだ」ということを表現するために、相手と握手をすることになっているのですが、それを日本人のほうは理解していないため、お互いにうまく意思疎通をすることができません。

こういった具体例から考えられることは、異文化を理解することは、「文化や風習の違いを理解し、意思疎通ができない理由を理解し合って、意思疎通ができるようになること」がその出発点であると言い換えることができるのではないかと思います。また、逆に、異文化を理解し合えないということは、お互いの風習の不理解からくる意思疎通不良が頻繁に起きるということです。

《翻訳と異文化理解の関係》

ということは、異文化理解をするうえでは、翻訳との関係がとても大切になるといえます。互いの文化や風習の違いを理解し、意思疎通ができるようになる「異文化理解」をするためには、相手の言葉を自分達の言葉で理解し、相手の文化・風習を理解できなければならないからです。また、翻訳によって新しい世界観や宗教、学問といった知識の体系を理解していった背景にも、相手の言葉を自国語に翻訳し直し、相手の文化・風習を自分達の言葉の体系の中で理解し直すことで、異文化を理解してきたという歴史があったということです。ただ、注意しなければいけないことは、異文化間では、相手の言葉の体系の中には存在するけれども、自国語の言葉の体系の中には存在しないような考え方も、ありうることです。例えば、「ステーキ」という料理は明治時代から始まったものです。「ステーキ」を牛の焼き肉を食べたことがない人に「厚切り牛肉を焼いたもの」と説明しても、その料理のイメージをすぐに理解することはやはり難しいように思います。つまり、言葉の翻訳ができれば、すぐに異文化が理解できるわけではなく、翻訳によって自国語にはない考え方を自国語で表現することができるようになってはじめて、異文化を自国語の内部に取り込むことができるようになり、その結果、異文化理解が進むのだというプロセスが大切なのではないかと思います。

まとめ

古来より、新しい知識や学問を習得し、異文化を理解するために、翻訳という知的作業が営まれてきました。翻訳を通して異文化を理解することで、自らの文化が飛躍的に発展するきっかけを得るだけでなく、文化や風習の違いを知り、異文化間での意思疎通が可能となります。ただし、翻訳をすれば異文化の全てが理解できるわけではなく、あくまで自国語の考え方の理解が及ぶ範囲内で異文化理解ができるに過ぎないことに十分配慮すべきと考えます。

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