慶應義塾大学 FIT入試第2次選考 法学部政治学科 2008年論述問題 解答例

2008年度FIT入試第二次試験概要(政治学科)

1.模擬講義の概要 •講義のテーマ:民主主義の失敗

  • 講義の概要: 1.民主主義とは何か

2.少子高齢社会における政策決定の特徴

3.国民年金制度と若者

4.民主主義の失敗に対する若者の対応:3つの方法

*大学1年生が受講して理解できるレベルの講義(50分)を行った。

2.論述形式試験の概要 •論述の設問内容:国民年金制度にみられる「民主主義の失敗」の説明と若者世代がどう対応すべきかの論述

  • 解答の形式:A3レポート用紙形式・字数制限なし。
  • 試験時間:45分

 

【議論の整理】

「公共選択論」の分野の中での考え方のひとつである「民主主義の失敗」について、概観したい。

まず、民主主義の前提を確認する。民主主義とは、各人が平等に選挙権をもち、政治参画する権利が政府から保障されることによって、活発に議論がなされ、その結果として、多くの人を説得できる言論が実現していくことによって社会が自然とよりよくなっていくということが前提とされる考え方であった。しかし、「民主主義の失敗」では、民主主義的な投票制度が保障されているにも関わらず、合理的にみて非合理な政策が選択される現象についてのプロセスの解明を試みている。例えば、少子高齢化社会における現在の年金制度を見てみると、賦課方式が適用され、少子高齢化が一段と進行した後に現在の制度が維持されうるのかがやや疑問視されているところである。特に、若者については、自身が年金制度全体を支えているという意識が乏しく、若者の国民年金の納付率が、年が若くなるほど下がりがちであるというデータが存在する。このような若者の国民年金の制度への参加率の減少によって、国民年金制度自体の維持が難しくなるという現象が発生する。これと同様に、合理的な投票者は、自身の一票が投票結果を変え、世の中を変革する可能性が実質ゼロに等しいと認識しているため、政治的決定について熟慮することなく、「合理的無知」となり、民主主義的な投票制度によっては、本当に合理的な意思決定を行うことができなくなっていると考えられる。また、投票者個人が、自身の一票が全体の意思決定に影響するという意識が希薄な状態であると、投票者群のもつ考え方の偏りが「合理的非合理」となり、より一層政策決定に悪影響を及ぼして、その影響を政治家や官僚、マスメディアも受けることによって、ますます合理的選択ではない「大衆迎合的政策」を政府が実施する傾向性が強まっていく。そして、多様化・複雑化し、全容を把握することが困難になった高度化社会において、間接民主制が採用されていることがこの傾向性にさらに拍車をかけている。これが、「民主主義の失敗」の考え方だ。

「民主主義の失敗」における指摘で重要なことは、議論の結果として、無条件に社会全体でよりよい判断が下せるようになるわけではなく、現代民主主義も機能不全になることを明らかにした点だ。古代ギリシャの民主政においても、衆愚政とよばれる民主主義の機能不全が指摘されてきた。現代民主主義においても、古代の民主政と同様に、民主主義の制度を信じ、民主主義的に問題の解決を図ろうとすればするほど、愚かな政策を選択する「民主主義のパラドックス」が存在することを明確にした点で、「民主主義の失敗」は重要である。

【問題発見】

こういった「民主主義の失敗」で示された「合理的無知」や「大衆迎合的政策を実施したくなる政治環境」、そして「大衆迎合的な政策を助長する間接民主制」を解消し、民主主義的投票制度によって、合理的な意思決定を行うための施策は、果たして存在するのであろうか。

【論証】

第一に、政治制度で投票を強制するのではなく、市場原理を活用して、「合理的無知」に陥った集団が合理的選択を自ら行えるように制度設計をやり直すという考え方があり得る。例えば、予算や財政赤字などの現代政治の諸問題にルールを導入すること(単年度予算制の廃止等)で、政府による決定から市場原理による意思決定へと意思決定の主軸を移していくという試みがありうる。

さらには、投票者の知識不足への対策が必要である。例えば、マスメディアの報道チャンネルを現在の寡占状態から多様化させて、投票者への政治選択における知識を得る手段を拡充し、様々な視点から政治的意見を分析できるように制度設計をする方法がありえる。具体的には、電波オークションによる放送電波の競売によって、マスメディアを多様化させるなどの施策を実施することだ。

そして、高度化・複雑化した社会において、間接民主制が「合理的無知」を誘導する制度となっているのであれば、直接民主制によって、国民の意見が直接行政に反映されるような制度を導入する考え方もありうる。つまり、首相公選制の導入を行うという施策だ。確かに、首相公選制として直接民主制を採用することによって、より大衆迎合的な意思決定になるのではないかという反対論もあり得る。しかし、行政が議会や官僚の意見に影響を受けることなく、投票者の要望を首相候補が公約として掲げ、実施することができるようになれば、投票者の投票行動が、より合理的で責任ある行動に変化することは十分想定されてよい。少なくとも、「民主主義の失敗」の紹介で概観した通り、政治家・官僚・マスコミが一体となって大衆迎合的な政策を実施していきがちな現在の政治環境が、政治家だけで意思決定できるようになるため、大きく変動することには間違いがない。

【結論】

以上の検討により、投票者一人ひとりが政策決定をするための知識を知らない「合理的無知」または、バイアスのかった「合理的非合理」を選択することを防止し、合理的選択を各人が行えるようにするために、市場原理を活用すること、知識の拡充が可能になるマスメディアの自由化を行うこと、首相公選制を採用し間接民主制を直接民主制に切り替えることといった施策を導入することが必要であると考える。

【結論の吟味】

それぞれの結論は、現在の政治環境においては合理的選択ができないことが国民の目に明らかにされたときに、現行の法律の改正や、憲法改正等によって十分に実施することが可能であると考える。

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