慶應義塾大学 法学部 FIT入試 A方式 2016年 グループ討論  議論の流れと対策

■設問

グループ討論の概要
・テーマ(法律学科):
日本政府は観光立国という政策を掲げています。観光は地域活性化や雇用機会の増大などの効果を期待できるというのが、政府の考えです。一方で経済への波及効果を上げるためには、観光資源を整備したり、観光業の規制を明確にするという努力も必要となります。政策を実現するにあたっては、観光業という特定の産業を支え育成するために国民の税金が投下されることになります。観光立国という政策について自由に議論してください。

・テーマ(政治学科):
近隣に住む人びととの関係が希薄化しており、地域のつながりの意味を再認識する必要があるとする指摘があります。他方、地域や近隣といった空間・場所を超えて、人と人とのつながりをひろげていく必要があるとする見解もあります。今後の日本社会において、人と人とが支えあうネットワークをどのように維持・構築していくべきだと考えますか。自由に議論してください。

■想定される議論の流れ

・法律学科

それでは観光立国という政策の是非について話し合っていきます。議論の流れとして、まず観光立国がどのような政策であるか前提を確認します。次に観光立国によるメリットとデメリットを挙げます。最後にメリットとデメリットを比較して観光立国の是非を決めます。
観光立国とは外国人観光客を誘致するための施策です。自然環境などの観光資源を活かしつつ、外国人観光客にとって観光する楽しみや利便性を向上させ、外国人観光客が増えるような働きかけとなっています。

メリットについて。
経済に対してプラスの影響を与えることがメリットです。現在、少子高齢化が進んでおり、人口も減少の一途をたどっています。そう遠くない未来には、日本の人口は一億人を切ると言われています。このように人口が減少していく社会においては、経済が衰退していきます。なぜなら、人口減少に伴い、国内での消費が減っていくからです。例えば、人口が200人で1人あたりの消費額が100円の国があるとします。この国の経済規模は「200*100」で2万円ということになります。もし、消費額がそのままで人口が100人に減ったとします。これで経済規模は「100*100」で1万円になります。このように、人口の減少は、国内での消費活動の減少に直結してしまいます。このような経済の衰退は、国民の生活に直接的な影響を与えるだけではなく、間接的な影響を与えます。それは社会保障への影響です。経済が停滞するということは、その分だけ、国家が得られる税収が少なくなることに繋がります。これにより、少子高齢化によりただでさえ厳しいとされている社会保障に悪影響が出ることは間違いありません。したがって、人口減少による経済の問題は無視することができない重要な問題です。このような現状を、観光立国という政策で打破することができます。なぜなら、観光立国により、国内の消費低迷を海外の人の消費によってまかなうことができるからです。
このメリットについて、質問や反対意見はありますか。
《観光立国を推し進めることで人口減少による経済に対する負の影響を完全に打ち消すことができるのでしょうか?》
人口減少による負の影響を完全にカバーできるかどうかはわかりません。しかし、そこはこの議論において重要ではありません。大切なポイントは、人口減少による経済成長を、手をこまねいて見ているしかないという現状を変えるためにアクションをとるということができるということです。現状維持で絶対に悪くなるとわかっているなら、何かしらの方策は打つべきです。したがって、観光立国のような政策は必要だと考えられます。

デメリットについて。
観光立国を行うための税負担の増加がデメリットです。税負担は主に2つに分類されます。1つ目は、観光資源の整備です。日本には自然環境や歴史的建造物など様々な観光資源があります。もちろんそれらの魅力を維持し、発展させていくためには相応のお金が必要となります。2つ目は、観光しやすい環境の整備です。電車などの公共交通機関の整備、英語での表示を増やすなどの配慮、キャッシュレス決済への対応など環境の整備も多岐にわたります。しかし、一般企業は金銭的な理由から、それらの環境整備をするインセンティブがありません。したがって、税金を投入する必要があります。これらの税負担は日本国家に大打撃を与えます。メリットでも述べられていたとおり、少子高齢化社会においては、社会保障など国の財政はただでさえ悪い状況になります。観光立国による税負担増加が起こってしまうと、この状況に拍車をかけてしまい、社会保障の崩壊などを招いてしまう恐れがあります。
このデメリットについて、質問や反対意見はありますか。
《なぜ国の税金を観光立国という政策につぎ込むことが問題なのでしょうか?》
税金をつぎ込む自体は問題ではありません。むしろ、国策としてやっていく上では必要な経費だと思います。しかし、問題となるのは、国策として税金を投入するのに値するのかという点です。現在、少子高齢化社会でただでさえ厳しい財政を更に圧迫させてまで観光力行という政策をとるべきかどうかは疑問が残ります。

メリットとデメリットを比較していきます。メリットは外国人観光客の誘致により経済が良くなることです。副次的な効果として、税収の増加も見込めます。デメリットは税負担の増加です。メリットとデメリットが税負担という観点で衝突しているので、まずここについての結論を示します。デメリットで述べているように、税負担というものは確実に起きます。メリットで述べられているように、税収は増えるかもしれませんが、それが増加するであろう税負担を上回るのか、下回るのかはわかりません。しかし、現状を維持していっても少子高齢化の煽りを受けて財政は確実に悪くなっていきます。そうであるならば、確実に悪くなるという状況を打破するためにも観光立国をすべきだと言えます。よって、税の観点からはメリットを優先すべきであるという結論に至ります。仮に税については結論が出なかったとしても、経済についてはメリットが残っています。なぜなら、少なくとも悪くなるであろう経済にプラスの影響を与えることができるからです。したがって、メリットがデメリットを上回るため、経済立国という政策を日本は推し進めていくべきです。

・政治学科

近隣住民との関係の希薄化などを踏まえて、人々が支え合うネットワークをどのように維持・構築していくべきかについて話し合っていきます。議論の流れとして、1番目に近隣住民との関係が希薄化した原因を分析します。2番目に近隣住民との関係を築くために必要なことを論じます。3番目に近隣住民以外との関係を築くために必要なことを論じます。4番目に近隣住民とのネットーワークやそれ以外のネットワークとの比較をしていきます。

1番目に近隣住民との関係の希薄化の原因について論じます。原因は2つに分類されます。1つ目は人々の生活の利便性が向上したことです。「お醤油が切れたから隣の家に借りに行く」というのは、現代では少し古臭い印象を受けます。今ではわざわざ隣の家に借りに行かずとも、24時間営業のコンビニエンスストアに行くことでお醤油を手に入れることができます。このように、生活の利便性が向上したことで、誰かに頼らなくても生きていける社会が形成されています。したがって、近隣住民とのネットワークを築く必要がありません。2つ目は直接的ではないコミュニケーション手段が確立されたことです。マズローの欲求5段階説の3段階目は、所属と愛の欲求です。つまり、人間は誰しも少なからず人との関わりを欲しているということです。以前はこの欲求を満たすためには、近隣住民などと直接コミュニケーションをとるしかありませんでした。しかし、現代のようにインターネットが普及した時代においては、必ずしも直接的なコミュニケーションに拘る必要がありません。自分が親しくしたいと思う人とだけコミュニケーションをとることができます。また、SNSや匿名掲示板を利用することで、知らない人とインターネット上でコミュニケーションをとることができます。

2番目に近隣住民との関係を築くために必要なことを論じます。個人単位でできることとして、会うたびに丁寧な挨拶を心がけることや、お土産をあげるなどです。小さなことですが、確実に今後のコミュニケーションのきっかけとなります。集団単位でできることとして、地域で回覧板を回したり、地域民参加で行う清掃活動を行ったりするなどコミュニケーションがとれる機会を設けることです。参加の有無で結果は異なりますが、「近隣住民とのコミュニケーションをとりたいけど、うまくいかない」と考えている人には効果的に機能します。

3番目に近隣住民以外との関係を築くために必要なことを論じます。1番目でも述べたとおり、現代では、誰とでもコミュニケーションをとることが可能です。Twitter、Instagram、FacebookなどのSNSでは、知らない人とでも相互フォローしてつながることがで可能です。また、同じ趣味の人で集まれるマッチングアプリなども多数存在します。それらを活用することによって、日本中、世界中の誰とでもコミュニケーションをとれます。

4番目に近隣住民とのネットーワークやそれ以外のネットワークとの比較をしていきます。まず、前提として確認しておきたいことは、どちらの手法によるコミュニケーションも優劣はつきません。確かにそれぞれメリットとデメリットはありますが、それは優劣に繋がりません。それらのメリットとデメリットを踏まえた上で、どちらのコミュニケーションをとりたいと思うかが重要です。なぜなら、それが自分に向いているコミュニケーション手法だからです。近隣住民とのネットワークにおけるメリットは、緊急性の高い事態に陥ったときに助けが得られることです。「お醤油」の例のように、なにか困ったことがあったときにすぐに協力し合うことができます。一方、近隣住民とのネットワークにおけるデメリットは、コミュニケーションを途中で放棄できないことです。インターネット上では、「合わない」と思った人は連絡をとらないという選択肢をとれます。しかし、現実の、しかも近隣に住んでいる人ではそのような選択をとることができません。極論ですが、自分の嫌いな人とでもコミュニケーションをとらなければならない場面も出てくるかもしれません。続いて、インターネット上におけるメリットを述べます。自分と趣味が合う人と大量に知り合うことができます。また、多くの人と関わった上で、最終的に自分が関わりたいと思う人とだけコミュニケーションをとり続けるということも可能です。インターネット上におけるデメリットは、犯罪に巻き込まれる危険性があることです。現実での知り合いは、今後も関係が続いていきますが、インターネット上では、そうとは限りません。匿名性を逆手に取って犯罪に利用しようとする人もいます。そのようなリスクには十分に注意を払う必要があります。

最後にまとめを行います。現在、人とのネットワークを構築するためには、近隣住民などの人とコミュニケーションをとることもでき、インターネット上でのコミュニケーションも可能です。それぞれにメリットとデメリットがあり、自分にあったやり方でネットワークを構築することができます。

■ディベートのコツ

・法律学科

議論の整理→議論が錯綜しないように、「何について話し合うのか」、「どのように話し合うのか」を定める必要があります。今回の場合、観光立国のメリットとデメリットについて論じます。

それでは観光立国という政策の是非について話し合っていきます。議論の流れとして、まず観光立国がどのような政策であるか前提を確認します。次に観光立国によるメリットとデメリットを挙げます。最後にメリットとデメリットを比較して観光立国の是非を決めます。
観光立国とは外国人観光客を誘致するための施策です。自然環境などの観光資源を活かしつつ、外国人観光客にとって観光する楽しみや利便性を向上させ、外国人観光客が増えるような働きかけとなっています。

問題発見及び論証→それぞれの側面から原因を挙げていきます。意見を主張するときは、その意見の根拠や背景についても触れるようにします。前提条件についてしっかりと確認するようにしましょう。

デメリットについて。
観光立国を行うための税負担の増加がデメリットです。税負担は主に2つに分類されます。1つ目は、観光資源の整備です。日本には自然環境や歴史的建造物など様々な観光資源があります。もちろんそれらの魅力を維持し、発展させていくためには相応のお金が必要となります。2つ目は、観光しやすい環境の整備です。電車などの公共交通機関の整備、英語での表示を増やすなどの配慮、キャッシュレス決済への対応など環境の整備も多岐にわたります。しかし、一般企業は金銭的な理由から、それらの環境整備をするインセンティブがありません。したがって、税金を投入する必要があります。これらの税負担は日本国家に大打撃を与えます。メリットでも述べられていたとおり、少子高齢化社会においては、社会保障など国の財政はただでさえ悪い状況になります。観光立国による税負担増加が起こってしまうと、この状況に拍車をかけてしまい、社会保障の崩壊などを招いてしまう恐れがあります。
このデメリットについて、質問や反対意見はありますか。
《なぜ国の税金を観光立国という政策につぎ込むことが問題なのでしょうか?》
税金をつぎ込む自体は問題ではありません。むしろ、国策としてやっていく上では必要な経費だと思います。しかし、問題となるのは、国策として税金を投入するのに値するのかという点です。現在、少子高齢化社会でただでさえ厳しい財政を更に圧迫させてまで観光力行という政策をとるべきかどうかは疑問が残ります。

結論→今回のように政策の是非を問われたときは、最後にメリットとデメリットを比較しましょう。

メリットとデメリットを比較していきます。メリットは外国人観光客の誘致により経済が良くなることです。副次的な効果として、税収の増加も見込めます。デメリットは税負担の増加です。メリットとデメリットが税負担という観点で衝突しているので、まずここについての結論を示します。デメリットで述べているように、税負担というものは確実に起きます。メリットで述べられているように、税収は増えるかもしれませんが、それが増加するであろう税負担を上回るのか、下回るのかはわかりません。しかし、現状を維持していっても少子高齢化の煽りを受けて財政は確実に悪くなっていきます。そうであるならば、確実に悪くなるという状況を打破するためにも観光立国をすべきだと言えます。よって、税の観点からはメリットを優先すべきであるという結論に至ります。仮に税については結論が出なかったとしても、経済についてはメリットが残っています。なぜなら、少なくとも悪くなるであろう経済にプラスの影響を与えることができるからです。したがって、メリットがデメリットを上回るため、経済立国という政策を日本は推し進めていくべきです。

・政治学科

議論の整理→議論が錯綜しないように、「何について話し合うのか」、「どのように話し合うのか」を定める必要があります。今回の場合、人々のネットワークの構築について話し合います。

近隣住民との関係の希薄化などを踏まえて、人々が支え合うネットワークをどのように維持・構築していくべきかについて話し合っていきます。議論の流れとして、1番目に近隣住民との関係が希薄化した原因を分析します。2番目に近隣住民との関係を築くために必要なことを論じます。3番目に近隣住民以外との関係を築くために必要なことを論じます。4番目に近隣住民とのネットーワークやそれ以外のネットワークとの比較をしていきます。

問題発見及び論証→様々な側面から原因を挙げていきます。意見を主張するときは、その意見の根拠や背景についても触れるようにします。

1番目に近隣住民との関係の希薄化の原因について論じます。原因は2つに分類されます。1つ目は人々の生活の利便性が向上したことです。「お醤油が切れたから隣の家に借りに行く」というのは、現代では少し古臭い印象を受けます。今ではわざわざ隣の家に借りに行かずとも、24時間営業のコンビニエンスストアに行くことでお醤油を手に入れることができます。このように、生活の利便性が向上したことで、誰かに頼らなくても生きていける社会が形成されています。したがって、近隣住民とのネットワークを築く必要がありません。2つ目は直接的ではないコミュニケーション手段が確立されたことです。マズローの欲求5段階説の3段階目は、所属と愛の欲求です。つまり、人間は誰しも少なからず人との関わりを欲しているということです。以前はこの欲求を満たすためには、近隣住民などと直接コミュニケーションをとるしかありませんでした。しかし、現代のようにインターネットが普及した時代においては、必ずしも直接的なコミュニケーションに拘る必要がありません。自分が親しくしたいと思う人とだけコミュニケーションをとることができます。また、SNSや匿名掲示板を利用することで、知らない人とインターネット上でコミュニケーションをとることができます。

結論→様々な論点があるときは、最後にしっかりとまとめを行いましょう。

最後にまとめを行います。現在、人とのネットワークを構築するためには、近隣住民などの人とコミュニケーションをとることもでき、インターネット上でのコミュニケーションも可能です。それぞれにメリットとデメリットがあり、自分にあったやり方でネットワークを構築することができます。

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