広島大学 総合科学部総合科学科総合科学文科系 一般前期・外国人留学生選抜B 2019年度 小論文過去問解説(調査と生活へのまなざし)
問1【解説】
設問文
生活・暮らしに関する以下五つの資料から読み取った内容をふまえて、自分の論旨にふさわしい題(タイトル)を解答用紙の冒頭にある所定欄に記し、一二〇〇字以内で小論文を作成しなさい。その際、少なくとも三つの資料を取りあげ、言及した資料の番号をすべて解答用紙の末尾にある所定の欄に記入すること。
設問条件の判定
- 制限字数: 1200字以内
- 意見論述の要求: あり
- 選択テンプレート: 5STEPs法
- 判定根拠: 五資料のうち少なくとも三資料を用い、生活・暮らしについて論じる総合小論文であるため。
解答プロセス
- STEP1 議論の整理: 資料は都市、日用品、社会調査、障害者の生きる根源的問題を通じ、生活を外側から見る危うさを示す。
- STEP2 問題発見: 生活を研究・政策の対象にするとき、当事者の具体的な暮らしが抽象化されやすい。
- STEP3 論証: 資料一の都市、雑器の資料、調査の愛情に関する資料をつなげる。
- STEP4 結論・解決策: 生活を理解するには、制度や統計に加えて、日常の道具と当事者の声を見る必要がある。
- STEP5 吟味: 愛情だけでは足りず、正確さと距離も必要だと補う。
問1【解答】
題: 生活を知るための距離と愛情
生活を理解するには、外から眺めるだけでは足りない。資料一の都市論は、都市が自ら食糧を生産しないにもかかわらず存続してきたことを示している。都市で暮らす人は、自分の生活を自立したものと思いやすいが、実際には農村、行政、流通、税、治安など多くの仕組みに支えられている。生活は個人の内側で完結していない。
同じことは、日用品を見る視点にも当てはまる。民藝や雑器に関する資料は、生活の価値が高価な作品ではなく、ふだん使う器や道具に宿ることを教える。大量生産の都市生活では、ものはすぐ買い替えられる。しかし、暮らしを本当に見るなら、どの道具が手になじみ、どのように直され、誰の作業を支えているかを見なければならない。
さらに、調査の心構えに関する資料は、対象への深い愛情がなければ正確な実態を明らかにしようという責任感は生まれないと述べる。障害者の生活をめぐる問題は、単なるプライバシーの問題ではなく、生きることの根源に関わる問題だとされている。ここから分かるのは、生活を調べる者が相手を対象化しすぎれば、最も大切な苦しみや願いを取り逃がすということである。
ただし、愛情だけで調査が成り立つわけではない。対象に近づきすぎれば、都合の悪い事実を見落とすこともある。必要なのは、当事者の側に立とうとする想像力と、事実を正確に記録する冷静さの両方である。
政策を作る場合にも同じことが言える。都市の貧困を「所得の不足」とだけ見れば、住まいの不安、移動の困難、近隣関係の断絶は見えにくい。障害者の生活を「支援対象」とだけ見れば、本人が何を大切にし、どのように暮らしたいのかが後回しになる。生活を知るとは、分類することではなく、分類からこぼれる具体性を拾うことである。
結論として、生活を知るとは、統計や制度を読むこと、道具や場所を見ること、当事者の声を聞くことを結びつける営みである。暮らしは抽象的な「社会問題」ではなく、食べる、住む、使う、移動する、支え合うという具体的な行為の連なりである。その具体性を失わないまなざしが、生活を考える出発点になる。
字数カウント: 906字



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