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広島大学 前期日程 2013年度 小論文過去問解説(ネットワークと個人の責任)

広島大学 前期日程 2013年度 小論文過去問解説(ネットワークと個人の責任)

問題の概要

平成25年度の広島大学前期日程小論文は、五つの資料から読み取った内容を踏まえ、自分の論旨にふさわしい題を付けて1200字以内の小論文を作成する問題である。少なくとも三つの資料を取り上げ、言及した資料番号を答案末尾に記入することが求められている。資料群は、自然科学のネットワーク、江戸期の施行と匿名寄付、ネットワーキング論、村落共同体のつきあい、中国社会における「壁と卵」の比喩などを通じて、人間のつながりの力と危うさを考えさせる構成である。

設問文

以下の五つの資料から読み取った内容をふまえて、自分の論旨にふさわしい題を解答用紙冒頭の所定欄に記入し、1200字以内で小論文を作成せよ。その際、少なくとも三つの資料を取り上げ、言及した資料の番号を解答用紙末尾の所定欄に記入すること。

課題文の要点

資料1は、社会、ウェブ、生態系、企業間関係、脳内ニューロン、分子群などが、異なる領域に属しながら似たネットワーク構造をもつと述べる。個々の要素を分析するだけでは、集団としての機能や変化を理解できず、相互作用の構造を捉える必要があるという点が重要である。

資料3は、江戸時代の「施行」や、現代の「伊達直人」現象を取り上げる。匿名の寄付行為は、共同体の温もりだけでなく、独立した個人としての冷静で強靭な意思を示すものでもある。また、災害時の施行は都市を越えたボランティア・ネットワークを生み出した。

資料4は、ネットワーキングを、自発的な意思をもつ個人が自由に結びつき、互いに触発し合う関係として説明する。ネットワーク組織の条件は、自律性と多様性である。ただし、ネットワークを過大評価すると「ネットワーク幻想」に陥る危険もある。

資料5は、村上春樹の「壁と卵」の比喩を手がかりに、中国社会における国家・軍隊・官僚組織と個人の関係を論じる。インターネット統制のような強大なシステムも、結局は人間が作ったものであり、私たちはシステムを独り立ちさせてはならないと示唆する。

解説

設問条件の判定

  • 制限字数: 1200字以内
  • 意見論述の要求: あり
  • 選択テンプレート: 5STEPs法
  • 判定根拠: 自分で題を付け、複数資料を踏まえて小論文を作成する意見論述型である。1200字以内と長めで、資料間の関係整理、問題発見、論証、結論の吟味が必要になるため5STEPs法を用いる。

解答プロセス

STEP1 議論の整理: 設問は、五つの資料のうち少なくとも三つを用い、自分の論旨に合う題を立てることを求める。資料1は、個別要素ではなく相互作用の構造を見る必要を示す。資料3は、匿名寄付や施行が個人の意思から都市を越えるつながりになることを示す。資料4は、自律性と多様性をもつネットワーキングの可能性と幻想を示す。資料5は、システムも人間が作る以上、個人の責任を問う。

STEP2 問題発見: 答えるべき問いは、「つながりは人を自由にするだけか、それとも人を縛るシステムにもなるのか」である。設問要件のうち、資料を三つ以上取り上げる条件は、資料1・3・4・5を使って満たす。題名を付ける条件は「つながりを育て、システムを飼いならす」と設定する。

STEP3 論証: 演繹法で考える。まず、ネットワークは要素の足し算ではなく、関係の作り方によって機能が変わるという原則を置く。資料1の水分子や生態系の例は、この原則を自然科学の側から支える。次に、資料3の匿名施行は、自律した個人の行為が支援の網を作る例である。さらに資料4は、自律性と多様性があって初めて、ネットワークが問題解決の力になると述べる。

STEP4 解決策・結論: 結論は、つながりを善とみなすだけでは不十分で、個人が自律性と責任を保ちながら、ネットワークを作り替え続ける必要があるということである。資料5の「我々がシステムを作った」という視点を用い、壁のような制度や世論も、人間の関係の積み重ねとして捉え直す。

STEP5 吟味: ただし、個人の自律だけを強調すると、社会の構造的な力を軽視する危険がある。だから答案では、強大なシステムへの批判と、身近なつながりの作り方への責任を両立させる。資料4の「ネットワーク幻想」への警戒を入れることで、楽観論に偏らない答案にする。

解答例

題:つながりを育て、システムを飼いならす

私たちは、つながりを温かく自由なものとして語りがちである。しかし、つながりはそれ自体で善なのではない。個人が自律性を失えば、つながりは硬直した共同体や巨大なシステムに変わり、人を支えるどころか、人を縛る力にもなる。

資料1は、社会、ウェブ、生態系、企業間関係、脳や分子の働きが、いずれもネットワーク構造をもつと述べる。ここで重要なのは、個々の要素をどれほど詳しく調べても、全体のふるまいは理解できないという点である。水分子そのものを知っても、水が固体になる変化は、分子間の相互作用を見なければわからない。同じように、人間社会も、優れた個人を集めれば自動的によくなるわけではなく、個人同士がどのように結びつくかによって性格が決まる。

その意味で、資料3の匿名の施行は示唆的である。江戸時代の災害時に、名を名乗らずに施行を続けた人々や、現代の「伊達直人」現象は、共同体の義務に回収されない個人の意思を示している。しかも、その意思は一人で完結せず、都市を越えた支援のネットワークを生み出した。ここには、制度に命じられたからではなく、他者の苦境を自分の判断で引き受ける個人の力がある。

ただし、つながりを理想化してはならない。資料4は、ネットワーキングが自律性と多様性を条件に成立するとしながら、同時に「ネットワーク幻想」への警戒を促している。たしかに、自由な人々が結びつけば、新しい発想や支援が生まれる。しかし、その関係が同調圧力や身内びいきに変われば、従来の組織と同じように排除を生む。大切なのは、つながることではなく、違いを保ったまま協力できる関係を設計することである。

資料5の「壁と卵」の議論は、この問題をさらに広げる。国家や官僚組織のような「壁」は、個人を圧迫する強大なシステムに見える。だが村上春樹の言葉が示すように、システムは私たちが作ったものであり、私たちと無縁に存在する怪物ではない。インターネット統制のような壁も、人々の恐れ、無関心、服従、利益追求が積み重なって維持される。ならば、壁を批判するだけでなく、自分がどの関係を強め、どの関係を断つのかを問わなければならない。

したがって、現代に必要なのは、つながりを増やすことそのものではなく、つながりを点検し、作り替える力である。匿名で支援する個人の意思、異なる人が協力するネットワーク、システムを独り立ちさせない責任を結び合わせるとき、つながりは人を縛る網ではなく、人を支える網になる。

字数カウント: 1020字

使用資料番号: 1、3、4、5

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